瀬戸だより760号「瀬戸の土」という話

  • 2021.01.23 Saturday
  • 14:38

 

 このステイホームの時期だから、もう一度せともの・瀬戸について考えてみようと先週から書いています。先週書いたのは「瀬戸は名古屋の隣で、海はない」という場所の説明でした。

 

 瀬戸は六古窯のひとつになっているように、千年以上の歴史を持つ焼き物の産地です。土の特徴は白くきめ細かなことです。鉄分が多く含まれたりして、焼いたときに独特な風合いを醸し出すというような土ではありません。土味を味わうという点では物足りなさがあるでしょうか。しかし、白く細かな土というのは様々な陶器はもちろん、アレンジ次第では磁器の土にもなります。結果、食器だけでなく配電に使う碍子(電線についているようなやつ)や便器などの衛生陶器など様々な工業製品も生みだしてきました。そういう部分では安っぽさを感じがちな土かもしれません。実際にせともの作りに携わる人の中にも瀬戸の土を何でも作れる「器用貧乏」なイメージを持っている方もいるようで……。うーん、ちょっと残念。


 白いことが瀬戸の土の特徴。だからこそ発展してきたのが「釉薬」です。様々な釉薬が白い素地の上に掛けられてきました。瀬戸七釉とか赤津七釉とか言われることがあるように、織部や黄瀬戸や志野や古瀬戸や……実に色とりどり(日本で釉薬を器に掛けて焼いた施釉陶器も瀬戸が始まり)!さらに呉須絵や鉄絵など様々な文様が描かれてきました。自由な表現を支えるすばらしいキャンバスとしての素質はどこの土よりも優れていると思います。最近人気の「練り込みの技法」(色付けされた土を組み合わせることで様々な文様を作る技法)なども土が白いからこそできる多彩な表現のひとつと思います。
 その白い良質な土が豊富にある産地、それが瀬戸です。

 

 来週は、春は近くに来ているか「雛めぐり」の話です(予定)。

瀬戸だより759号「この機会にもう一度最初に戻って」という話

  • 2021.01.16 Saturday
  • 14:58

 

 非常事態宣言の中、なかなかモノの動きも悪いようで、忙しく作家さんや窯元さんを行ったり来たりということも少なくなったようです。また、美術館やギャラリーにいそいそと出かけるという気分にもなりません。毎週このメールマガジンのネタを探すのもたいへんです。振り返るとなんだかんだと15年も続いているわけで、新しい話というものが見つかりにくいというのも当然と言えば当然ですね。
 たぶん、この「瀬戸だより」スタート時からずっと読んでいただいているという方もさほど多くないのじゃないかと……。最初にせともののことについて基本的なところを書いていましたが、今15年たって再度そのあたりを書き直してみるのも面白いかなぁと思い立ちました。15年前と同じことを書いても、(当然だけど)見方や思いが変化していますし、知識や経験も(たぶん)積み重ねられている(はず)です。ということで、このコロナ禍のステイホームを活かしてせともののことなど1からまたぼちぼち書いていこうと思います。よろしくお願いします。

 

 そもそもですが、瀬戸ってどこにあるかご存知ですか?
 まあ、瀬戸やその周辺に住んでいる方なら当然わかっているわけですが、意外とそのあたりが知られていないこともあります。学生時代に東京で出身地を話す時、瀬戸って答えると……「四国?」とか「広島の方?」とか瀬戸内イメージに引っ張られている方が結構多いことに驚きました。まあ、そんなものかな。
 もちろん、せとものの瀬戸市は愛知県にあります。名古屋市ともちょっと接しています。北に行けばすぐ岐阜県境で美濃焼の産地(多治見とかね)に入ります。南に行けば自動車産業の中心豊田市。そこそこ便利な土地です。冬は雪は少ないかわりに夏はこれでもかというほど暑いです。あ、はっきりしておかなきゃいけませんが「海はありません」。
 瀬戸という地名も、昔は陶器を作る場所「すえと(陶処)」がなまって「せと」になり、「瀬戸」の字があてられたという説があります。それだけ古い時代から陶器を作っていた土地なんです。瀬戸内海とは全く無縁です。


 瀬戸は「愛知県にあって海はない陶磁器の産地」。瀬戸の知識の初歩中の初歩です。

瀬戸だより725号「瀬戸焼の特徴って?」という話

  • 2020.05.09 Saturday
  • 14:32

 先日、ちょっとした取材を受けました。瀬戸や焼物について「瀬戸だより」という形で長くに渡り配信し続けていることに関してでした。いつもはひとりで考えて原稿を書くのですが、たまにこうした他からの問い掛けに対して答えると、あらためて考えるきっかけになったり再発見があったりします。

 

 ものすごく根本的な問なんですが「瀬戸の焼き物の特色、魅力って何ですか?」というのは簡単で難しいものです。以前に市が瀬戸焼ハンドブックの編集をするというので、お手伝いで会議に参加しました。工業組合や商業組合(私たちだ)、陶芸協会など瀬戸焼に関係する方たちが集まったのですが、その答えはなかなかまとまらなかった事を記憶しています。瀬戸の土は「白いきめ細やかな土で、何にでも使うことが出来る」。つまりは器(陶器も磁器も)から碍子や建材など工業製品にも使うことが出来るのが瀬戸の土の特徴と言うわけですが、結局この万能性は「器用貧乏」のようなイメージになりかねない……というところで意見は止まっていました。

 その後も自分の中でこの答え(瀬戸焼の特徴、魅力)考えて来ました。まあ、とにかく工業分野まで広げて考えてしまうとややこしくなってしまうんじゃないかと。純粋に器としての瀬戸の特徴(土から)を考えてみましょう。

 

 今回の取材の中でも「瀬戸の焼き物の特徴、魅力」を問われました。自分の用意した答えは次のものです。

 

 瀬戸焼の特徴は土が白いことである。これは他の産地の土に比較すれば「土味」の面白さはない。その代わりたくさんの釉薬が発展した。これは白い故の特徴。さらに技法も多岐にわたり展開された。例えば、瀬戸の土は磁器にも応用出来るので「染付」。土に顔料で色を付ける「練込」。などなど実に多彩。それがひと

つの産地で出来るのが瀬戸。土味に縛られない分、表現はとても自由。

「じゃあ、美濃焼の特徴とどこが違うの?」と言われたら、国境(今なら県境)で分けられた背中合わせのお隣さん。昔から職人や技術の行き来もあったから、似てる……と答える(としか言えない……しょうがない)。最近は美濃は瀬戸からの土もかなり利用されていると聞きますし。

 モノの特色ではないですが、粘土はもちろんその他の原料、窯、道具まで、陶器作りのすべてが揃っていて、陶磁器作りを周りからしっかり支えてくれる職人さんやお店がしっかりいるのも瀬戸。

 

 そんなような話をしました。たぶん、他にも答えはあるんでしょうね。「土が白いから、たくさんの釉薬、技法が発達」が私が行き着いた瀬戸焼の特徴です。

 

 いろいろ話しましたが、カットされるかどうかはわかりません。

 ひとまず(東海地方だけになってしまいますが)明日日曜、午後3時からテレビ愛知・サンデージャーナルでこの地方の焼物を特集するそうです。

瀬戸だより704号「今年の干支と御題茶碗」という話

  • 2019.12.14 Saturday
  • 11:04

 12月ももう半ば。忙しさのピークもそろそろ越えたところ…という感じです。

 干支置物、そして御題茶碗のお届けがまだ続いています。

 

 来年の干支は子、ねずみ年です。ねずみというのは身近な動物というイメージですが、実際に目にすることはあまりないかもしれません。いつもねずみを見かけます、というのは住環境としてどうかと思います。となると、ねずみのイメージというのも現代ではイラストだったり間接的なものが中心かもしれません。

 なんとなく耳が丸く大きな(浦安にいるような)ねずみ、というのが最近はよく見られるような気がします。まあ、置物でもイラストでも、リアルにし過ぎるとちょっとばかり気持ち悪くなっちゃうわけで、かわいく(ハムスター風になったとしても)すべきなんでしょう。

 皆さんも年賀状を書く時にちょっとだけリアルなねずみかかわいいねずみか考えてみては面白いかもしれませんよ。

 

 御題茶碗は御題「望」にちなんだ茶碗になります。御題茶碗というのは皇室の新春行事・歌会始に出されるテーマ「御題」にちなんで製作される茶碗になります。新春に使うにはふさわしく、毎年変わるためコレクションとしても面白い茶碗です。

 望という御題。今年は平成から令和への代替わりもあり、例年は正月の歌会始で発表される次回の御題も令和になってから発表となりました。歌の題としては新しい時代に希望を感じられる、作りやすい題になるように思いますが、これを茶碗として表現するには難しいものがあります。

 「新幹線描くわけにはいかないもんなあ」という話も作家さんからよく聞きました(昨年の「光」から続いたということもありますし)。結果、文字で「望」を書くという作家さんも多かったです。また、望を含んだ「望月」、つまりは満月を描いたものも多い印象です。

 御題にちなんで、というのは茶碗だけでなく和菓子などもよく作られるようですので、菓子職人のアイデア、表現も気になるところです。

 

 いろいろ頭を使ってアイデア出して作っていただいた茶碗・置物も大部分が当店からお客様の手元にほぼ届いたようです。

 年末に向けて、さらに忙しくなっていくという方もいらっしゃると思います。寒さが増していくようですが、あと少し風邪をひかないようにお互い乗り切りましょう!

 

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このブログの内容は加藤兆之助商店の発行するメールマガジン「瀬戸だより」のバックナンバー(保存版)になります。 文章は発行当時の内容になっています。日付など内容にはご注意ください。記事の全文あるいは一部を無断で転載・複製は禁止します。 http://web-setomono.com

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