瀬戸だより727号「辻晉堂の陶彫」という話
- 2020.05.23 Saturday
- 10:42
愛知県は緊急事態宣言が解除されました。関東や北海道は近々解除の話もありますが、解除されてもされなくても、依然十分に気をつけて行動することには変わりありません。
解除された瀬戸の街ですが、市内の公共施設は今月いっぱいは休業が多いようです。瀬戸市美術館も瀬戸蔵も6月から再開になっているようです。しかし、市内にあっても県立の愛知陶磁美術館はもうすでに再開されています。ということで、久しぶりに美術館に出かけてきました。
開催中の企画展は「異才 辻晉堂の陶彫 ―陶芸であらざるの造形から―」。当初は5月31日までの会期でしたが、コロナ休館の関係で6月21日まで延長されています。
■「異才 辻晉堂の陶彫 ―陶芸であらざるの造形から―」
https://www.pref.aichi.jp/touji/exhibition/2020/t_tsuji/index.html
辻晉堂は日本を代表する彫刻家。陶芸以外の分野の作家の「土」を素材にした作品というのは興味深いものがあります。陶磁器とかかわり合いの強い環境にいると、器の観念に知らず識らずに囚われ、素材「土」の特徴の一部しか見られていないことが多いように思います。今回の展示でもタイトルに「陶芸であらざる」とされています。
「陶彫」という作品になります。陶の彫刻。作家は戦前より彫刻家として活躍していましたが、戦後に京都市立美術専門学校(現・京都市立芸術大学)の教授に就任後、京都に移り住んだことから始まります。そこには京焼があり土と出会える環境だったということです。
ポスターにもある「犬」という作品。抽象化された陶彫ですが、展示ケースの中の作品を見ていると、その焼き締められた信楽の土が犬として動き出すように思いました。タイトルとそれに添えられた解説プレートを見ていくと様々な作品がより生き生きと自己主張してくるような展示でした。
その解説の中で気になった言葉が「空洞性」というものでした。土(陶器)の特徴として空洞性があげられていました。なるほど土は彫刻の素材としてよく使われる木や石や金属と違ってある程度の厚みを持って、そして内側に空間を内包する素材です。無垢な土は乾燥焼成の段階で割れることが多くなります。どうしても中に空間が必要です。今回の展示でも最初は裏側から土を掘り出し空洞に、そして内なる空洞を表現として意識した作品になっています。ヘラで彫るような表現から始まり、最終的には薪窯が(京都の条例で)禁止ななり、電気窯と移行していくなかで、土の柔らかさを感じる作風のものも見られるように感じました。
とにかく刺激的な展示でした。
緊急事態宣言解除後の再開でしたが、入場の際にはソーシャルディスタンスなどの注意の他、氏名と連絡先を提出するなど、まだまだコロナ克服までの道のりを感じさせられました。でも、こうして美術館で鑑賞が可能になったということは、日常を取り戻すその一歩という印象を持ちました。