先週お伝えした通り、お雛めぐりはスタートしています。いつもの年なら、お祭りを華やかに演出する飾りつけもいっぱいですが、今年は控えめな感じです。まあ、それは仕方ない。何しろ緊急事態宣言発出中であります。それでも市内あちこちにひなの飾りつけは見られ、春らしさを感じます(まだ寒いけど)。
■第20回陶のまち瀬戸のお雛めぐり
http://www.seto-marutto.info/event-post/ohinameguri/
その雛めぐりのひなミッドも置かれてる瀬戸蔵で開催中の企画展「瀬戸の青磁−その始まりと展開−」を見てきました。瀬戸蔵ミュージアム内のこの企画展示スペース、狭いです。狭く展示点数も限られる代わりに小まめなこうした企画展が行われるのが個人的には気に入っています。大きな展示は展示点数も必要だったり、なかなか企画を進めるのもたいへんだろうと想像できますが、この規模なら「ちょっと気になる展示」には向いています。
瀬戸の青磁。瀬戸は陶器と磁器の両方を生産できる稀有な産地というのはこの瀬戸だよりでも繰り返して話してきました。磁器は染付に代表されますが、もちろん青磁も磁器であり、九州からその技法が磁祖・民吉により瀬戸に伝えられたのち(早い段階で)生産がスタートしています。
青磁というと、中国の銘品として伝来している文化財クラスのものもたくさんありますし、今も韓国の焼き物の代表格でお土産に買ってきたという経験がある方もいるでしょう。そういうものを見ていると感じるのは、一言で「青磁」と言っても千差万別、色合いも表現方法も様々です。鉄を含む釉である…これが青磁ですが、水色だったり薄い緑だったり様々な発色です。釉に厚みを持たせることでその色合いの深みを出したり(そういう生産過程も展示解説されている)、素地自体の性質で色合いも違ったりします。もちろん還元焼成の雰囲気も影響します。私が瀬戸窯業高校専攻科で学んでいたころの恩師は青磁を研究されていて「青磁には手を出すなよ、やり始めると奥が深くてたいへんだ」と話されていました。様々な要素の組み合わせであの魅力的な翡翠のような色が完成していると思うとより感慨深く感じます。実に奥深い釉です。
瀬戸の青磁ですが、今回の展示でも器や花器などだけでなく建材やトイレ(!)などまでも紹介されています。用途が幅広いのも瀬戸の特徴です。雛めぐりの見学といっしょにこの展示も楽しむのもおすすめです。(4月18日まで、瀬戸蔵ミュージアム)
ここ数日、瀬戸も雪がちらつく寒い日が続いていますが、今日から瀬戸では「陶のまち瀬戸のお雛めぐり」が始まりました。今回で20回目。瀬戸の春の始まりを告げるイベントになっています(3月7日まで)。
コロナ対策、緊急事態宣言……いろいろなイベントが中止、延期、縮小されていますが、いつも通りにお雛めぐりは開催されるようです。先日も市の中心にある瀬戸蔵に行ってきましたが、1000体もの創作ひなを展示する高さ4メートルの「ひなミッド」の準備が行われていました。
■第20回陶のまち瀬戸のお雛めぐり
http://www.seto-marutto.info/event-post/ohinameguri/
まあ、基本的には「密」にはならないイベントですので安心でしょう。(「密にならないイベント」とかいうとなんか失礼な言い方に聞こえますけど)どこかに多くの人が集中してしまうということはなく、街中の商店街の店先や各ポイントポイントでひな人形などの展示を見ながらの散策が中心になりますから密にはなることはないだろうということですね。会場周辺の飲食店では例年通りにお雛めぐりにちなんだ特別なメニューを用意されていますし、お雛はしおきプレゼントも準備されています。
展示のほかにも様々な体験イベントも要視されています。上記のホームページ内のチラシを見て確認して楽しみましょう。……とはいうものの、ひなミッドの観覧時間が午後8時までになっていたりと、変更点があっても不思議ではない現状ですので、それぞれの問い合わせ先に確認した方が安心かもですね。
このイベントが始まると、瀬戸も少しずつ春らしさを感じるようになる……春が来て、コロナが落ち着いて、安心できる日が早く来るといいですね。
このステイホームの時期だから、もう一度せともの・瀬戸について考えてみようと先週から書いています。先週書いたのは「瀬戸は名古屋の隣で、海はない」という場所の説明でした。
瀬戸は六古窯のひとつになっているように、千年以上の歴史を持つ焼き物の産地です。土の特徴は白くきめ細かなことです。鉄分が多く含まれたりして、焼いたときに独特な風合いを醸し出すというような土ではありません。土味を味わうという点では物足りなさがあるでしょうか。しかし、白く細かな土というのは様々な陶器はもちろん、アレンジ次第では磁器の土にもなります。結果、食器だけでなく配電に使う碍子(電線についているようなやつ)や便器などの衛生陶器など様々な工業製品も生みだしてきました。そういう部分では安っぽさを感じがちな土かもしれません。実際にせともの作りに携わる人の中にも瀬戸の土を何でも作れる「器用貧乏」なイメージを持っている方もいるようで……。うーん、ちょっと残念。
白いことが瀬戸の土の特徴。だからこそ発展してきたのが「釉薬」です。様々な釉薬が白い素地の上に掛けられてきました。瀬戸七釉とか赤津七釉とか言われることがあるように、織部や黄瀬戸や志野や古瀬戸や……実に色とりどり(日本で釉薬を器に掛けて焼いた施釉陶器も瀬戸が始まり)!さらに呉須絵や鉄絵など様々な文様が描かれてきました。自由な表現を支えるすばらしいキャンバスとしての素質はどこの土よりも優れていると思います。最近人気の「練り込みの技法」(色付けされた土を組み合わせることで様々な文様を作る技法)なども土が白いからこそできる多彩な表現のひとつと思います。
その白い良質な土が豊富にある産地、それが瀬戸です。
来週は、春は近くに来ているか「雛めぐり」の話です(予定)。
]]> 非常事態宣言の中、なかなかモノの動きも悪いようで、忙しく作家さんや窯元さんを行ったり来たりということも少なくなったようです。また、美術館やギャラリーにいそいそと出かけるという気分にもなりません。毎週このメールマガジンのネタを探すのもたいへんです。振り返るとなんだかんだと15年も続いているわけで、新しい話というものが見つかりにくいというのも当然と言えば当然ですね。
たぶん、この「瀬戸だより」スタート時からずっと読んでいただいているという方もさほど多くないのじゃないかと……。最初にせともののことについて基本的なところを書いていましたが、今15年たって再度そのあたりを書き直してみるのも面白いかなぁと思い立ちました。15年前と同じことを書いても、(当然だけど)見方や思いが変化していますし、知識や経験も(たぶん)積み重ねられている(はず)です。ということで、このコロナ禍のステイホームを活かしてせともののことなど1からまたぼちぼち書いていこうと思います。よろしくお願いします。
そもそもですが、瀬戸ってどこにあるかご存知ですか?
まあ、瀬戸やその周辺に住んでいる方なら当然わかっているわけですが、意外とそのあたりが知られていないこともあります。学生時代に東京で出身地を話す時、瀬戸って答えると……「四国?」とか「広島の方?」とか瀬戸内イメージに引っ張られている方が結構多いことに驚きました。まあ、そんなものかな。
もちろん、せとものの瀬戸市は愛知県にあります。名古屋市ともちょっと接しています。北に行けばすぐ岐阜県境で美濃焼の産地(多治見とかね)に入ります。南に行けば自動車産業の中心豊田市。そこそこ便利な土地です。冬は雪は少ないかわりに夏はこれでもかというほど暑いです。あ、はっきりしておかなきゃいけませんが「海はありません」。
瀬戸という地名も、昔は陶器を作る場所「すえと(陶処)」がなまって「せと」になり、「瀬戸」の字があてられたという説があります。それだけ古い時代から陶器を作っていた土地なんです。瀬戸内海とは全く無縁です。
瀬戸は「愛知県にあって海はない陶磁器の産地」。瀬戸の知識の初歩中の初歩です。
新たらしい年はスタートしましたが、「緊急事態宣言」もあり重い気持ちになりますね。今後、愛知県も発出の可能性は高いようです。
成人式の中止・延期がニュースになっています。瀬戸市内の成人式は行うと発表がありました。もともと瀬戸市の成人式は一カ所で行う形ではなく、地域(小学校区に近い)ごとに公民館で行っています。新成人も小学校の卒業生が集まるという(比較的少人数な)同窓会的な雰囲気で、うちの地域では小中学校の恩師がゲストに来ていただくようなアットホームなものです。
今回は公民館よりずっと大きい小学校などの体育館などの会場に、来賓の制限をかけて、ごく短時間で行うなどの感染対策をしっかり行っての式典に。あとは「会食」を我慢して家に帰る……そんな成人式になるようです。
そう言えば、来週は宮中の「歌会始の儀」が予定されていましたが、こちらは先日延期が発表されています。「瀬戸だより」でもよく話題にする歌会始。御題(テーマ)にちなんで製作する御題茶碗に関係するために注目しているのですが、それ以上に古式に則って発表される多くの入選された歌を聴くことも楽しみにしています。
昨年は最初に発表された高校生の歌にジーンときてしまいました。今年の入選も最年少は高校生と発表されています。若い人の歌にいつも注目しています。
歌会始が延期後いつ行われるかはわからないようですが、楽しみに待ちます。
2021年がスタートしました!本年もよろしくお願いいたします。
本来なら昨日が今年最初の土曜日で「瀬戸だより」の配信だったわけですが、正月明けてのんびりしてしまい今日日曜の配信になります。今年もそんな調子でのんびりスタートですが、また一年よろしくお願いいたします。
寒波が来ると言われていた年末年始ですが、雪などのトラブルもなく穏やかな年の始まりとなりました。とは言うものの、どこかしこに(年は替わっても)コロナの影というか不安が付きまとっているのは変わりません。瀬戸市内の深川神社も(個人としては喪中なので参拝には行っていませんが)例年よりずっと人出がないように見えました。近所の神社も近くを通っても静かなようでした。
今年はどうなるんだろう?いつまで続くのか?オリンピックはどうなる?……というのが最近の会話になっていますが、いい方に変わっていくことを信じています。昨年は中止になってしまったせともの祭などで皆さんとお会いできると信じて、今しばらくは耐えましょう!がんばりましょう!
昨年はイベントの中止はもちろん、美術館の展示なども減った関係でこのメールマガジンでお届けできる話題自体が少なかったです。今年はあらためてせとものを楽しむという原点に戻って、様々な話題を配信していきたいと思います。
今年もよろしくお願いいたします!
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今年最後の「瀬戸だより」の配信になります。
まずは先週は急にお休みをいただきました。ホームページなどではお知らせいたしましたが、体調不良でした。体調不良と言っても、味覚異常とか高熱が続くという、「アレ」ではございません(安心ください)。先月あたりから「めまい」が続いており、耳鼻科で「良性」のものと診断されたものの(良性なんて言うけど、脳や心臓から来るものではなくその点では安心ということのようで、つらいことは十分つらい…)、さらにいただいた薬が合わなかったようでめまい+吐き気で全く動けなかったということです。今までこんなことはなかったのですが、まあ年齢を重ねて来るといろいろ出て来るようです。今はかなり回復してきて、日常生活は問題なくできるようになりました。ご心配、ご迷惑をおかけした皆様、すいませんでした!
最終最後の体調不良でしたが、なんとかご注文いただいた商品は無事すべてのお客様のもとにお届けすることが出来ました。ここ数日で支払い等も順調に済んできており、ほっとしています。一年、無事に暮れていくようです。
この一年を振り返れば、コロナの影響大(これは誰もがいっしょでしょうね)でした。瀬戸も春の「陶祖まつり」、秋の「せともの祭」と「招き猫まつり」と軒並みイベントは中止になってしまいました。全くさみしいものです。
新型コロナウイルスの感染者も瀬戸市内でも12月にはいり、一日平均3名以上という新規感染者が発表されるなど厳しい状況が続いています。おかげさまで自分の周辺ではまだ感染されたという方はいないようですが、油断はできません。皆さまも十分にお気をつけて年末年始をお過ごしください。
瀬戸市でこの一年、明るい話題と言えば将棋の藤井聡太二冠の大活躍となるでしょう。対局ごとに瀬戸市内の応援スポットでたくさんの市民が応援する風景はテレビのニュースなどではよく流されていました。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。コロナ感染予防のため、大人数での応援というのは最近は減って来たような感ですが、それでも街中のモニター前などでは対局を足を止めているファンも今もいらっしゃいますね。いよいよ藤井二冠も来春は高校卒業。さらに将棋に邁進されるのではないでしょうか。期待しています。
まあ今年は、コロナコロナでいったい何だったかわからない一年でした。来年は安心して暮らせる年になりますように!元気に過ごせる年になりますように!心よりお祈りして、今年の「瀬戸だより」を締めくくらせていただきます!よいお年をお迎えください!ありがとうございました。
この一年はコロナだ、イベント中止だ、なんだかんだと、仕事ということでは例年以上にヒマな年になりました。多くの業界でも同じような感じかもしれません。中には事業の存続すら考えている、という話も聞くことあります。
それでもこの時期だけは(本当にこの時期のみ!)忙しくさせていただきます。まあ、短い時期ですが。
一昨日は今年初めて「それではよいお年をお迎えください」というご挨拶をしました。そんな頃になったとびっくりしました。昨日はたまたま前を走るトラックがたくさんの太い青竹を山のように積んでいました………あっ!門松か!!いつもより年の瀬を感じることが多いように感じます。なんとなく例年よりクリスマスが自粛なのか一足飛びに新年がやってくるようです。そういえば、個人的には忘年会の予定なしです。
そんな年の瀬に届いた瀬戸市の広報誌ですが、例年4月の陶祖まつりの出店募集がありました。出店募集と言っても若手を対象にしたものですが。今年は同様なイベントも中止になっていましたから、来年は今年の分まで取り返していただきたいと思います。
■瀬戸市広報
http://www.city.seto.aichi.jp/docs/2020121000091/
結構、市が企画するイベントなどを見ていると「若手」を対象にしたものが多いように思います。次代のものづくりを担ってくれる人たちを育てたい、支援したいという気持ちは伝わってきます。
個人的には今までの瀬戸を作ってきたベテランの作り手と若手がそろって何かを行うということがより魅力的じゃないかとも思います。瀬戸という土地の伝統というか空気というかそういうものをより伝えていけるのじゃないかと思います。古い時代のせともの作りの話というのも、若手に役に立つと思います(場合によってはうっとしく感じることもあるかもしれませんが)。
弟子入りして独立して、という時代じゃなくなってきている今はそういう機会もなくなってきていますしね。
お知らせしたとおり今年のせともの祭は中止となりました。せともの祭、何しろ「密」です。特に花火の時間なんかは濃密です。残念ですが、今年の状況を考えれば仕方ないとは思います。まあ、それでも来年につながる何かを、ということでいろいろ検討されています。時期が来たら、こちらでもお知らせいたします。(今後、今まで同様に気楽に「陶器の法螺貝、吹いてみてねー」みたいなのは無理なんだろうなぁ)
落ち込みがちな瀬戸の街ですが、こんな時に希望を与えてくれるのが藤井聡太7段になります。瀬戸市の出身(在住)ということで、また最近は瀬戸市内は盛り上がっています。初タイトル、それも最年少でのタイトル獲得に期待がかかります。やっぱり藤井7段、すごい。
梅雨と言いながらも、この季節の晴れた日は気持ちいいものです。外出自粛も緩和され、県をまたいでの観光も出来るようになってきました。出掛けたい気分になりますねぇ。
昔、よく窯元ではこの季節に「今年は山行きはどうするの?」なんて声を聞いたものです。初夏の山は気持ちいいですからね……ということではなく、「山行き」というのは瀬戸では職場の慰安旅行のことです。もともとは瀬戸は山の神信仰があったようです。土も火(を燃やす薪)も山からの恵です。それに感謝するのは当然ですね。そのお参りを兼ねて、窯の仲間でお酒や弁当を持って楽しんできたのでしょう。それが時代を経て、慰安旅行のことを指すように変化したようの思います。
今は瀬戸も窯元自体が少人数のところが増えてきたり、家族中心の窯元も多いので「慰安旅行」としての山行きも行うところは減ってきているように感じます。楽しく窯元の職人さんたちが山行きに行くのは窯のチームワークを見るようでいい雰囲気で仕事をされているように感じていました。
さあ、私も個人的にどこか山行きしたいところです。こちらは瀬戸周辺の本当の山に登りに行きたいのですがね。
]]>たまたま今回1984年に講談社から復刻されたものを入手できました。内容はもとより、体裁も活字も変えることなく復刻されたものです。旧時代の活字は慣れるまでちょっと読みにくかったですね。
内容は「黄瀬戸」の変遷を時代と場所をたどりながら読み解いていくものになっています。これは加藤唐九郎自身による窯跡の発掘などのフィールドワークと大量の古文書の研究に裏打ちされた内容です。今となっては郷土史(焼物史)的には常識になっていることが多いのですが(これは唐九郎氏の研究の正しさを物語る)当時の定説とは異なる画期的(衝撃的?)なものだったはずです。
猿投周辺で焼かれ始めた施釉陶器が山伝いに瀬戸へ、そして美濃へと移動していくさまがフィールドワークの成果とともに活き活きと描かれています。当時の窖窯はその構造上、山の尾根や頂上付近に作られ、土や燃料が尽きると移動していく。施釉陶器の技術の広がりも山の尾根をまた同じように移動していきます。やがて国境を超え美濃に達し、窯の技術革新により山から里に降りてくる……それは黄瀬戸のスタイル(釉調)の変化を伴いながら移動していきます。氏が作家であると同時に優れた「研究家」であった事がよくわかります。
焚書騒ぎはこの本の内容に怒った瀬戸の人(一部の人であったようですが)によりおきました。瀬戸の人にとっては偉人であった陶祖・藤四郎の存在を否定し、いたとしても「山窩の親分」だったかもという書き方をしています。窯跡の陶片を調べていけば、陶祖の時代より前から施釉陶器は作られており、陶祖が中国から持ち帰って起きたであろう「技術革新」の展開がわからない、ということを考えれば、氏の説は正しいとは思います(山窩かはともかくにしろ)。
焚書騒ぎまでに発展したのはそれ相応の原因はあったと考えます。明治以降、特にこの昭和になる頃には瀬戸の陶磁器作りの流れが量産へと大きく変化していっています。唐九郎氏などの従来の焼物作りとは異なる価値観の生産(大量量産)が時代の中心になってきていたわけです。そのあたりのこともあるためか、結構この「黄瀬戸」の中でもトゲのある表現で当時の”工人”を批判している部分もあります。
また、輸出などを含めて伸びてきた瀬戸の陶磁器産業が世界恐慌のため、急ブレーキがかかった時代でもあります(大量の在庫を抱え、その処理と給料の支払いのため「せともの祭の廉売市」が始まったのもこの前年です)。人々のストレスや不満がこの本の内容に対して一気に吹き出したのかもしれません。
しかし、そもそもこの本は今で言う「大炎上」になりそうな表現を感じます……そりゃ、怒るだろうと。案外、唐九郎氏は古陶器の再興のため、注目を集めるためにあえてそこを狙ってそういう書き方をしたのかもしれませんね。
※アマゾンでも復刻版の古書は入手できるようです。
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今週、9月に予定されていた「せともの祭」と「来る福招き猫まつりin瀬戸」の中止が発表されました。特にせともの祭は毎年当店も出店することもあり、たいへん残念に思います。
延期しての開催なども期待していましたが、コロナ禍のこの状況の中では今年は仕方ありません。神事のみは行われるようです。1937年にせともの祭は始まり、終戦を挟んで1944年と45年は中止されたと記録にあります。それ以外は毎年行われてきた歴史がありますので、今回のコロナ禍はいかに大きな影響を各方面に与えてきているかをあらためて知らされる思いです。
楽しみにされていたお客様も多いと思います。何か来年につながることを行いたいと、今後アイデアを出し合っていくことになると思います。どんな事ができるかわかりませんが、その点はお楽しみにしていてください。
そして来年のせともの祭ではまた廉売市会場で皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。
招き猫祭りもファン(リピーター)の多いイベントですのでさみしく思われる方も多いでしょう。今年は9月の瀬戸の2大イベントが揃って中止になってしまいました。残念。
それでも瀬戸には今週明るいニュースもありました。瀬戸出身の藤井聡太7段が史上最年少でのタイトル挑戦(棋聖戦)を決めました。もう瀬戸の明るいニュースというと彼の話題に尽きるような気さえします。五番勝負は厳しい対戦になると思いますが、ぜひ「史上最年少のタイトル獲得」も決めてほしいと思います!がんばれ!!
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ステイホームの期間中、まったく手付かずで何年も放置されていた家の庭の徹底的な改造を行っていました。伸び過ぎた木、何か勝手に生えてきた木を整理して、必要ないものは思い切って伐採、根っこも掘り出すという作業を何日も行ってずいぶんすっきりしました(疲れました)。広い庭ではないのですが、それでも空いたスペースが幾分できました。そこで1坪ほどの家庭菜園など作ることにしました。レンガやブロックで区分けしようと思いましたが、たまたま古い窯で使っていた棚板やツクが手に入りましたので、ちょっと窯垣っぽい仕上げにしました。
棚板というのは窯に製品を詰める時使う横板、ツクというのはその棚板を支える柱になります。現在も棚板、ツクは窯の現場で使っていますが、素材はより耐火性の優れたものになっており薄く軽量なものになっていますが、昔の(薪窯の時代)棚板は5センチはあるかという厚み、ツクも6〜7センチ(昔の2寸と言うことでしょう)の直系の円筒。窯の熱で繰り返し焼かれるものなので、このくらいの厚みがなければ耐えられないということでしょう。とにかく重いです。狭い窯の中でこれらで棚を作り、製品を窯詰めする作業を想像するとそれだけで腰が痛くなりそうです。窯の仕事が今以上に重労働であったことが偲ばれます。
この棚板やツクやエンゴロ(製品を保護するケースの様な器)の不用になったものを垣根や塀などに再利用したものが瀬戸に多く残る「窯垣」です。板の直線やツクの丸を組み合わせて作られた窯垣の幾何学模様は瀬戸のシンボルともいえます。
なかなか他の産地では見かけないものと聞きます。瀬戸は製品に使う陶土だけでなく、こうした窯道具に使う耐火性の優れた道具土も豊富に採れました。そのため棚板やツクも傷みすぎる前に交換でき、(形がしっかりしているので)窯垣の材料として再利用できたようです。
窯垣の多く残る「窯垣の小径」は瀬戸の観光ポイントのひとつです。今はまだ外出を控える状況ですが、また自由に(気兼ねなく)観光できる時期が来たらぜひ窯垣を見に来てください!
解除された瀬戸の街ですが、市内の公共施設は今月いっぱいは休業が多いようです。瀬戸市美術館も瀬戸蔵も6月から再開になっているようです。しかし、市内にあっても県立の愛知陶磁美術館はもうすでに再開されています。ということで、久しぶりに美術館に出かけてきました。
開催中の企画展は「異才 辻晉堂の陶彫 ―陶芸であらざるの造形から―」。当初は5月31日までの会期でしたが、コロナ休館の関係で6月21日まで延長されています。
■「異才 辻晉堂の陶彫 ―陶芸であらざるの造形から―」
https://www.pref.aichi.jp/touji/exhibition/2020/t_tsuji/index.html
辻晉堂は日本を代表する彫刻家。陶芸以外の分野の作家の「土」を素材にした作品というのは興味深いものがあります。陶磁器とかかわり合いの強い環境にいると、器の観念に知らず識らずに囚われ、素材「土」の特徴の一部しか見られていないことが多いように思います。今回の展示でもタイトルに「陶芸であらざる」とされています。
「陶彫」という作品になります。陶の彫刻。作家は戦前より彫刻家として活躍していましたが、戦後に京都市立美術専門学校(現・京都市立芸術大学)の教授に就任後、京都に移り住んだことから始まります。そこには京焼があり土と出会える環境だったということです。
ポスターにもある「犬」という作品。抽象化された陶彫ですが、展示ケースの中の作品を見ていると、その焼き締められた信楽の土が犬として動き出すように思いました。タイトルとそれに添えられた解説プレートを見ていくと様々な作品がより生き生きと自己主張してくるような展示でした。
その解説の中で気になった言葉が「空洞性」というものでした。土(陶器)の特徴として空洞性があげられていました。なるほど土は彫刻の素材としてよく使われる木や石や金属と違ってある程度の厚みを持って、そして内側に空間を内包する素材です。無垢な土は乾燥焼成の段階で割れることが多くなります。どうしても中に空間が必要です。今回の展示でも最初は裏側から土を掘り出し空洞に、そして内なる空洞を表現として意識した作品になっています。ヘラで彫るような表現から始まり、最終的には薪窯が(京都の条例で)禁止ななり、電気窯と移行していくなかで、土の柔らかさを感じる作風のものも見られるように感じました。
とにかく刺激的な展示でした。
緊急事態宣言解除後の再開でしたが、入場の際にはソーシャルディスタンスなどの注意の他、氏名と連絡先を提出するなど、まだまだコロナ克服までの道のりを感じさせられました。でも、こうして美術館で鑑賞が可能になったということは、日常を取り戻すその一歩という印象を持ちました。
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以前にお世話になった作家さんがこんなことをおっしゃっていました。「衣食住の食というのは、器を変えるだけで変化出来る。一番簡単によくすることが出来る」ということでした。
実際の料理は外食はともかく、急に料理の腕が上がる、上手になるとかはなかなか難しく同じようなレパートリー…ということもありがちです。ステイホームで時間があるから、普段出来ない料理をクックパッドとかを見ながらチャレンジされている方もいらっしゃるでしょう。また、最近多くなっている飲食店からのテイクアウトでも食卓に変化を加えられる方法です。でも、新しい料理を作ってもいつもと変わらない器では変化の幅も感じにくい。テイクアウトの使い捨ての器のまま食事していては味気なさがある。この「瀬戸だより」を購読いただいている方は多少でも器というものに興味はあり方と思います。いつもの料理にアレンジをしたら、いつもの違った器に盛り付ければより変化を感じることが出来る。テイクアウトの料理を使い捨ての器からお気に入りの器に盛り直すだけで、よりおいしくいただくことが出来る(気持ちの問題と言えばそうですが)。
料理が盛られる器というのは食事の質をより良いものにしてくれるはずです。よく言う「料理のひと手間」の中には器を選ぶというのもあると思います。
ステイホームから(完全に)解放されたら、器を探しに街に出るのを楽しみにしてください。私たちもより楽しい器、素敵な器をお届けできるよう今は準備の時期だと思います。ぜひ、テイクアウトの料理や買ってきたお惣菜は手持ちの器に盛り直して楽しみましょう。盛り直す手間、洗う手間はかかりますが、かならずよりおいしく感じるはずです。食事を楽しむ時間は、器を楽しむ最高の時間でもあるのですから。ステイホームでも楽しみましょう!
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ものすごく根本的な問なんですが「瀬戸の焼き物の特色、魅力って何ですか?」というのは簡単で難しいものです。以前に市が瀬戸焼ハンドブックの編集をするというので、お手伝いで会議に参加しました。工業組合や商業組合(私たちだ)、陶芸協会など瀬戸焼に関係する方たちが集まったのですが、その答えはなかなかまとまらなかった事を記憶しています。瀬戸の土は「白いきめ細やかな土で、何にでも使うことが出来る」。つまりは器(陶器も磁器も)から碍子や建材など工業製品にも使うことが出来るのが瀬戸の土の特徴と言うわけですが、結局この万能性は「器用貧乏」のようなイメージになりかねない……というところで意見は止まっていました。
その後も自分の中でこの答え(瀬戸焼の特徴、魅力)考えて来ました。まあ、とにかく工業分野まで広げて考えてしまうとややこしくなってしまうんじゃないかと。純粋に器としての瀬戸の特徴(土から)を考えてみましょう。
今回の取材の中でも「瀬戸の焼き物の特徴、魅力」を問われました。自分の用意した答えは次のものです。
瀬戸焼の特徴は土が白いことである。これは他の産地の土に比較すれば「土味」の面白さはない。その代わりたくさんの釉薬が発展した。これは白い故の特徴。さらに技法も多岐にわたり展開された。例えば、瀬戸の土は磁器にも応用出来るので「染付」。土に顔料で色を付ける「練込」。などなど実に多彩。それがひと
つの産地で出来るのが瀬戸。土味に縛られない分、表現はとても自由。
「じゃあ、美濃焼の特徴とどこが違うの?」と言われたら、国境(今なら県境)で分けられた背中合わせのお隣さん。昔から職人や技術の行き来もあったから、似てる……と答える(としか言えない……しょうがない)。最近は美濃は瀬戸からの土もかなり利用されていると聞きますし。
モノの特色ではないですが、粘土はもちろんその他の原料、窯、道具まで、陶器作りのすべてが揃っていて、陶磁器作りを周りからしっかり支えてくれる職人さんやお店がしっかりいるのも瀬戸。
そんなような話をしました。たぶん、他にも答えはあるんでしょうね。「土が白いから、たくさんの釉薬、技法が発達」が私が行き着いた瀬戸焼の特徴です。
いろいろ話しましたが、カットされるかどうかはわかりません。
ひとまず(東海地方だけになってしまいますが)明日日曜、午後3時からテレビ愛知・サンデージャーナルでこの地方の焼物を特集するそうです。
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